ここから本文です。
華やかな都の春から、
荒れ狂う海の夜へ。
花の宴に沈む心 ── 母への想いと
帰郷を願う女の祈りを、
金剛流が気品ある古典の芸で描く
「熊野」。
そして語りと音が情景をひらき、
宝生流が革新の感性で魅せる
「夜能 船弁慶」。
愛と怨念が渦巻く、夜の海へ。
── ふたつの流派が描き、響き合う
「教文能」をお楽しみください。
札幌市教育文化会館で展開される多彩な教文能は、
観るだけにとどまりません。
舞や謡、能面、装束、言葉、物語──伝統の芸能に息づく美しさや響きを、
もっと身近に、もっと自由に感じていただける時間です。
時に能舞台がしつらえられ、幽玄の世界が立ち上がる日もあれば、
声や音にふれ、言葉を交わしながら、能を味わう場面もあります。
今年度は、子どもたちに向けた入門プログラム、能に親しむ市民の発表のひととき、そして二つの流派の公演や両流儀の宗家による語らい──古典の格式と、現代にひらかれた感性が交差する場が生まれています。
締めくくりには、詞章を声にのせて謡う、市民参加型の体験も。
一年を通じ、様々な能に触れるきっかけをお届けする教文能を
お楽しみください。
舞の優美さや豪快さに特徴があることから「舞金剛」とも呼ばれる金剛流。なかでも京都の金剛流は「京金剛」とも呼ばれ、五流の中で、唯一京都に宗家が存在することで京都風の芸風をもっているといわれています。”町衆のなかにあった能”とした歴史を持つためか、大らかで伸びやかな芸風が特徴です。金剛流の起源は奈良・法隆寺に仕えた「坂戸座」に遡り、やがて春日大社や興福寺に奉仕する「大和猿楽四座」のひとつとして名を馳せましたやがて、「金剛座」と呼ばれるようになり、現在の金剛流へといたります。
能楽シテ方五流派のひとつで、なかでも謡の美しさと技術の高さが特徴の宝生流。その豊かな旋律と表現の幅広さから、「謡宝生」とも呼ばれ、音楽性の高い芸風を築いてきました。謡には高度な技巧が求められ、多彩な節回しや抑揚が交錯することが、宝生流の大きな魅力です。一方で、舞台表現には質実剛健ともいえる静かな力強さがあり、品格と重厚感を併せ持った様式美の特徴もあります。江戸時代には幕府の庇護を受け、武家社会の格式とともに流派の地位を確立していきました。その起源は「大和猿楽四座」のひとつである外山座に遡り、奈良県桜井市外山を拠点としていたと伝えられています。長い歴史の中で、格式と品格を保ちつつ、能楽の根幹を担い続けてきた流派です。