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教文能

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金剛流と宝生流

宝生和英(宝生流)

インタビュー

「船弁慶」について

僕は、作者の観世小次郎信光が大好きなんです。彼の作品は能楽的な、チルアウト的な表現を持ちつつも、エンタメ性を両立させている、その技法がすばらしいと思います。「船弁慶」は前半では能楽の「らしさ」が凝縮されているのですが、後半では大衆も楽しめるようなスペクタクルが用意されている。能楽の演目は、どちらかに偏ることも多いのですが、「船弁慶」は、これを見れば、能楽のもつ幽玄性とスペクタクル、どちらの面も1回で楽しめるというところが魅力ですね。シテは前半後半でまったく別の人格をつとめます。前半は静御前という女性、後半は平知盛という猛将で、この演じ分けがキーになってきます。僕は演劇部だったこともあり、役によって演じ方を変えるのですが、その反面、演じないで役の魅せ方を変える手法もあり、今回のシテの小倉健太郎がどの様に表現するか楽しみにしてください。

今回の「船弁慶」、そして金剛流の「熊野」にはそれぞれ女性が登場します。二人が置かれている状況は異なりますが、この時代に生きる二人の女性の心情に共通点はあると思いますか?

僕が熊野をやるときは、ディズニープリンセスのつもりになっています。運命に立ち向かう女性というか。社会環境が女性にとって不利な中、(病気の母のもとへ帰りたいという)あきらめない強い意志を貫く女性ですよね。能楽界ではよく、反対方向に意識をかたむけろと言われるんです。例えば天狗は優しく、とか。熊野の場合は、力強さが大事だと思ってやっています。対して静御前の場合は大人なイメージ。この二作品は楽しむためのポイントが違っていて、「熊野」の絶対にあきらめない、というシンプルな意志に対して、「船弁慶」は会者定離という無常さ。戯曲にすると、「熊野」のほうが力強いメッセージがあり、楽しめるのではないかと思います。「船弁慶」は理解が進みすぎて他人事感をおぼえてしまうというか。音楽で言うと、「船弁慶」の静は、松原みきの「真夜中のドア」みたいな、昭和歌謡のイメージですね。熊野はもっとポップで強い、ガールズバンドのようなイメージです。

朗読と能のコラボレーションという新しい取組が生まれた経緯を教えてください。

この企画がうまれる下地になった要素が3つあって。まず、もともと僕自身が、耳から情報を得るタイプの人間だったんです。小説など、文字では全然情報が頭に入らなかったんですが、ドラマCDのように、声だと情報がストレートに入ってきて頭に定着しました。次に、能が知られていないという以前に、日本の古典文学がそもそも知られていないという危機感がありました。学校で習ったところで、楽しめないんです。だから、エンタメとして古典文学や能を楽しんでもらうために、朗読という技術に目を向けました。そして、これをどう形にするかというところでヒントになったのが、ジム・ヘンソンの「ストーリーテラー」という番組。ヨーロッパ各地の民話をストーリーテラーのおじいさんが語り部として紹介するというテレビシリーズが好きで見ていたので、こういうものがやりたいなと思ったんです。

能以外に好きなジャンルはありますか?また、それはご自身の能を演じることにどのようにフィードバックされていますか?

僕の基礎にあるのは、マンガやアニメといったサブカル。また、さっきも言ったように文字で読むのが苦手なので、特に音を大事にしていてます。実は、いつも演目にテーマソングをつけているんですよ。もうひとつ、最近のマイブームはトレーニングです。ちなみに今は、札幌のお店が作っている、エゾボリックというプロテインを飲んでいますよ(笑)!トレーニングを始めたきっかけは、コロナがあって何かを変えたいと思ったから。我々能楽師は美を追求する人たちだと思っています。型をやるにも、段階が二つあるんです。一段階目は、頭の中でこうやりたいと描くこと。こういう型が美しいと思う美的感性は、絵を見たりして養っていく。そして二段階目として、その美しいイメージを形にしていくわけですが、そこは肉体表現なので、筋肉とか骨格の動きが大事になってくる。そうすると、体のそれぞれの部分について知らなきゃ、美しいと思う型が再現できない。こうして、感性と実が繋がっていくんです。

10月の公演に向け、札幌(北海道)で公演することへの印象はありますか?

実は「風雨来記」という、北海道をツーリングして写真を撮りながら、いろんな出会いや別れを繰り返すゲームが好きで。また同じく北海道を舞台にした「北へ」というゲームも好きでした。その舞台ということで北海道を旅行しまくっていた時期があったので、僕にとって北海道は想い出の土地。また、今はご縁があって週刊少年サンデーさんとお仕事させていただいているので、藤田和日郎先生など漫画家さんのホームグラウンドで舞台ができるのも嬉しいですね。…もっと能楽に寄せたコメントのほうがいいですか(笑)?能楽では、素人会でうかがったことがあるくらいで、大きな公演としては北海道は初めてなので、とても楽しみにしています。

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